「HMZ-T1」の最大のポイントは、ヘッドマウントユニット内の表示デバイスに有機ELパネルを採用し、従来のヘッドマウントディスプレイ製品では考えられなかった高品位な映像を楽しめること。従来の製品は液晶パネルを採用するものがほとんどで、映像の品質については「薄型テレビやプロジェクターに劣る」というのが、ヘッドマウントディスプレイに対する一般的な評価であったが、「HMZ-T1」は明らかに違う。「薄型テレビやプロジェクターに匹敵する」と言っても過言でない高画質を実現しているのである。

具体的には、有機ELパネルに加えて、映像を解析してコントラストを自動補正する「コントラストリマスター」や、つややかな黒を再現する「クリアブラック」といった独自機能も搭載することで、非常に高コントラストな映像を表示できるようになっているのが大きい。さらに、「HMZ-T1」は、8ビット映像を14ビット相当の階調表現に向上する独自の「SBMV（Super Bit Mapping for Video）技術」を採用することで、豊かな階調性と色再現を実現しているのも見逃せない。

視聴テストでは、フィルムテイストの雰囲気のある映画や、スピード感・臨場感のあるスポーツ映像、くっきりした画質のアニメなどの映像コンテンツで色合いや階調性をチェックしてみたが、どのコンテンツも発色にすぐれ、非常に鮮明な描写であったことを確認できた。映像ソースの得意・不得意がない印象で、あらゆる映像を高品位に表示できていた。

表示デバイスに0.7型の有機ELパネルを採用。ガラス製の光学レンズで拡大表示するという仕組み

「HMZ-T1」は、従来のヘッドマウントディスプレイとは異なり、見た目上、大きな画面サイズを再現しているのも特徴だ。ソニーによると、「HMZ-T1」は、水平視野角45度を実現した光学レンズ（※有機ELパネルの映像を拡大する役目を担う）を搭載し、20m先にある750型相当という大画面スクリーンを再現できるようになっているとのこと。この「20m先にある750型相当のスクリーン」というのは、ちょうど大型映画館の中央で大画面スクリーンを視聴するのと同等。映画館の臨場感をそのまま楽しめるように設計されているのだ。

実際に「HMZ-T1」の映像を見てみると、個人差はあると思うが、ある程度離れた位置から大画面スクリーンを見るような感覚を再現できているのは確かで、暗い環境でプロジェクターの映像を投影しているような感じは受ける。従来のヘッドマウントディスプレイと比べると、画面サイズの大きさには雲泥の差があり、「HMZ-T1」では映像が視野いっぱいに大きく広がる。これは、「HMZ-T1」が光学レンズにガラスを採用し、収差や歪みを抑えるなどして画面の周辺部も高精細に表示できていることが大きい。ただ、ソニーのいう「20m先にある750型相当」という画面の距離・サイズ感は「そのとおり」とは言いがたい。特に「20m先」という距離感が感じにくい（判断しにくい）。

まず、部屋の明かりを付けた状態では、ヘッドマウントユニットにライトシールドを装着した状態でもわずかに外光が入ってきてしまい、どうしても「目の周辺に何かを装着している」という感覚が残ってしまう。そのため、「ユニットの中にある映像を見ている」というイメージを払拭しにくく、結果、近くにある映像を視聴しているような感覚になることがある。いっぽう、部屋の明かりを消し、真っ暗な状態で使用すると、画面のサイズ感がグッと広がる。ただ、暗闇の中に映像が浮いているような不思議な感じになり、画面の距離感はよくわからなくなる。個人的には、3〜5m先に80〜100インチサイズのプロジェクタースクリーンがあるような感覚を受けた（これでも十分にすごいのだが）。なお、画面の距離・サイズの感じ方は� �ヘッドマウントユニットの装着感によるところも大きく、個人差があるのはご了承いただきたい。

720p表示ながらもディテールの再現性は高い（※ヘッドマウントユニット内に表示されるブルーレイの映像をデジタルカメラで撮影したもの）

「HMZ-T1」の表示画素数は1280×720ドット（720p）となっている。薄型テレビでは一般的となった1920×1080ドットのフルハイビジョン表示に対応しない点を残念に思う方もいるかもしれないが、実際の映像は720pとは思えないほど高精細に感じる。試用前は「720pなので解像感が少しもの足りないかも」と考えていたが、実際の映像は不満のない解像感で、映像の細かいところもしっかりと描写されていた。

自動で3D映像の入力を判断して表示することが可能。2D-3D変換機能は備えていない（※ヘッドマウントユニット内に表示されるブルーレイの映像をデジタルカメラで撮影したもの）
3D映像も高品位。クリアで立体感のある映像を再現できていた（※ヘッドマウントユニット内に表示されるブルーレイの映像をデジタルカメラで撮影したもの）

さらに、「HMZ-T1」の映像面で驚きなのが「3D映像」である。「HMZ-T1」は、左右それぞれに独立したハイビジョン映像を表示する「デュアルパネル3D方式」での3D映像表示に対応している。この方式のポイントは、クロストーク（左右の映像が混ざり合って二重に見える現象）のない3D映像を実現できることだ。

薄型テレビやプロジェクターでは、一般的に、3D映像の表示に「フレームシーケンシャル方式」を採用している。この方式は「左右用の画面を高速で切り替えて表示し、アクティブシャッター方式のメガネと同期を取る」ことで3D映像を再現するのだが、画面切り替え時に前の画面が残ったり、アクティブシャッターの同期がうまく取れなかった際に、どうしても左右の映像が重なってしまって映像に残像感が発生することがある。クロストークの発生は、3D映像のぼやけにつながり、立体感を失わせる原因となる。いっぽう、「HMZ-T1」の「デュアルパネル3D方式」では、左目用・右目用の映像を左右のパネルにそれぞれ直接表示するため、構造的にクロストークが発生しない。そのため、「HMZ-T1」では、より自然な立体感を再現できるの� �ある。

実際に、「HMZ-T1」で3D映像を視聴してみると、従来の3Dテレビとの違いがハッキリとわかる。特に違いを強く感じるのが、映像のクリアさだ。「HMZ-T1」の3D映像は、薄型テレビやプロジェクターで専用のメガネをかけて視聴する3D映像と比べて、2D表示時と同じようにクリアで明るい。クロストークもなく映像もシャープで、正直なところ、3D映像については、大型の薄型テレビよりも「HMZ-T1」のほうがワンランクもツーランクも上のレベルにあると感じた次第だ。

720p出力の3Dゲームの映像も残像感なく表示できる（※ヘッドマウントユニット内に表示されるブルーレイの映像をデジタルカメラで撮影したもの）

「HMZ-T1」は、自発光方式の有機ELパネルを採用したことで、応答速度「0.01ms以下」という高速応答性を実現しているのも見逃せないポイントだ。今回、動きの速いスポーツ映像を使ってチェックしてみたが、「HMZ-T1」は、残像感がほとんどなく、非常になめらかな映像を再現できていた。

また、「HMZ-T1」は、ゲームをプレイする際にも、薄型テレビ（特に液晶テレビ）では得られないようなスムーズな映像で楽しむことができる。PlayStation 3においては、3Dゲームの720pの映像をそのままドットバイドットでキレイに表示できるのもポイントになるだろう。

最後に、「HMZ-T1」の音声面についても簡単にレポートしておきたい。「HMZ-T1」は、独自のバーチャルサラウンド技術「Virtualphones Technology」に対応しており、ヘッドマウントユニットに装備されるヘッドホンで、5.1ch相当のサラウンド感を得ることができる。

サラウンド感については、全体的に映画館の再現性を意識しているのか、やや広めの音場を再現するようになっているのが特徴。ただ、ブルーレイのHDオーディオのデコードに対応する同社のバーチャルサラウンドヘッドホン「MDR-DS7500」などと比べると、ユニットの大きさが小さいうえに、ヘッドホンのフィット感が弱いこともあって、臨場感や低音の迫力はもう一歩というところだ。

以上、「HMZ-T1」の画質・音声についてくわしく見てきたが、試用してみて感じたのは、この製品は、仕様上、ヘッドマウントユニットの装着・セッティングが重要になるということ。使い始めに、正しく装着して左右のレンズの位置を合わせておかないと、映像がボヤけてしまい、「HMZ-T1」が備える能力をフルに楽しむことはできないのである。また、ヘッドマウントユニットは約420gと重く、キチンと装着できていないと頭や首、鼻などが痛くなることもあるということは覚えておいてほしい。

装着の順序については、最初はとまどうかもしれないが、慣れればそれほど難しくない。ヘッドマウントユニットが目線に水平になるように装着するために、特に、ヘッドストラップ（下）とヘッドパッドの使い方が重要になる。最初にヘッドストラップ（下）を首元に近い位置（首の後ろのくぼみ）まで下ろした後に、ヘッドパッドを額に引っかける感覚でフィットさせるのがポイントだ。ユニットをメガネのように鼻に乗せるような感覚ではなく、キャップ帽を深くかぶるような感覚で装着するのがコツ。無理に鼻で支えようとすると、ちょっと首を下げただけでユニットがズレてしまうので注意したい。

ただし、「HMZ-T1」のヘッドマウントユニットをうまく装着できたとしても、フィット感には個人差があるようである。人によっては、レンズと目の距離が離れすぎてしまい、画面のサイズ感が弱まってしまうほか、外光がレンズに写り込んでしまうこともある。この場合は、ライトシールドを付けても外光を遮断できないこともあるので、部屋を暗くするか外光の少ない状況にして利用するように心がけたい。さらに、デジカメのファインダーのように視度調整機能がついていないため、視力の悪い方はメガネかコンタクトを付けて装着する必要がある。メガネの上からでも装着できるように工夫されてはいるが、極端に大きなメガネだとユニットと干渉してしまう可能性もある。さらに、左右の目の視力が異なる人だと、特に3D映像で� �ントが合いにくくなってしまうこともあるようだ。

ソニーが開催した新製品内覧会でも感じたことなのだが、今回、あらためて「HMZ-T1」でブルーレイやゲーム機の映像をチェックしてみて、すばらしい画質であることが再確認できた。「視聴したすべての方が」と言っても大げさではないくらいで、その新しい感覚の映像に多くの方が驚きを覚えるはずだ。そのくらい映像については完成度が高く、不満を感じることは少ないと思う。

ただし、「HMZ-T1」には、使用するうえで注意しておきたい点がいくつかある。以下に箇条書きしよう。

・キチンと装着しないと映像がぼやける
・ヘッドマウントユニットの装着感には個人差がある
・スクリーンサイズの感じ方には個人差がある
・ヘッドマウントユニットは重量約420ｇで、けっして軽くはない
・長時間使用していると首や額などが痛くなる（長時間の使用には向かない）
・ヘッドマウントユニットを装着していると外の様子が見えない

このように、「HMZ-T1」は、取り扱いについてクセのある製品となっている。特に、ヘッドマウントユニットは重量が約420ｇあり、装着時には、首や額に想像以上に負担をかけることは知っておいてほしい。実際、「HMZ-T1」は、使い慣れてきた状況でも、2時間弱の映画を1本見終えると疲れを感じるほどである。映像・音声に集中してしまうこともあるのだが、やはり、ヘッドマウントユニット自体が重くて疲れてしまうのだ。長時間利用する場合は、ソファやチェアに深く座って、できるかぎり首・額への負担を減らした、リラックスした状態で使用するのがベターだ。

「HMZ-T1」は、映像機器としては、他のことをしながら何となく眺められるテレビとはまったく用途が異なる製品だ。ライトな楽しみ方には向いておらず、本格的に映像・ゲームを楽しみたいときに利用したい製品である。そのため、ライバルとなるのは、3D映像に対応するホームプロジェクター製品になるとは思うのだが、これも直接的なライバルにはなりにくい。現時点では直接のライバルになるような製品は見当たらず、オンリーワンに近い存在となっている。それだけでもこの製品は市場に出る価値が高いのだが、「HMZ-T1」は、価格.com最安価格56,699円（2011年10月26日現在）と価格も安く抑えられている。映像クオリティの高さを考えるとこの価格はお買い得だ。事実、価格.comクチコミ掲示板でも「安い」というポジティブな反応が� ��い。なお、「HMZ-T1」は、製品発表時から予約が殺到している状態で、2011年10月26日現在では、「今予約をしても手に入るのは来年の1月以降になる」という店舗がほとんどとなっている。

以上、「HMZ-T1」のレビューをお届けした。「映像はよさそうだけど使い勝手が悪いのはダメ」と厳しい評価をする方もいるとは思うが、「HMZ-T1」の使い勝手については（特に重量については）、有機ELパネルやガラスレンズなどを採用したこととのトレードオフになっているので目をつむりたい。いや、つむってほしい。必ずしも使い勝手をよしとするわけではないが、それ以上に、今までにはない映像体験を実現するという開拓者精神にあふれた"ソニースピリット"を評価してほしいのである。「何かを犠牲にしてでも新しい体験を実現する」というのは、実にソニーらしさを感じる部分ではないだろうか。ニーズを重視するあまりに面白みに欠ける家電製品が多くなっている中で、日本のメーカーからこのような独創性のあるチャ� �ンジングな製品が登場したことは、素直に高く評価したい。ぜひ、多くの方に購入してもらって"ソニースピリット"を感じてほしい製品である。

撮影・記事：価格.comマガジン編集部 mkr

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